全滅した要因として農薬が主な原因であったと報道されることがあります。
それが本当なのかを検証しました。
トキの生態
トキは湿地や田んぼなどの泥中に生息する、ドジョウ、サワガニ、カエル、昆虫などを捕食します。
農薬の歴史
ロテノン、石灰硫黄合剤、ピレスロイドなどの農薬は開発されていましたが、トキの生息地である田んぼ(稲作)に有効な農薬の登場は遅れていました。
最初期の稲作に有効な2つ農薬の日本での登録時期を調査したところ、
パラチオン(1952年01月24日登録、日本特殊農薬)、
セレサン石灰(1952年12月08日登録、日本特殊農薬)でした。
つまり、1952年ごろから稲作に農薬が使われるようになりました。
トキ個体数の推移
1925年頃にはトキは全滅したとされていました。
農薬の登場は1952年です。
この時点で農薬が主な原因であった報道に疑問が生まれました。
しかし、1930年に佐渡島で再発見され、1934年12月28日に天然記念物に指定されました。
当時はまだ佐渡島全域に生息しており、生息数は100羽前後と推定されていました。
1930年~1995年までの日本のトキの総数のグラフによると、1950年には既に40羽前後になっていました。
(原典:尾崎清明(1997年)「日本におけるトキ絶滅の歴史」 科学 67巻10号)
注:「1950年以前の数は全域を把握しているものではなく、実数の総数はこれより多い」と記されている。
「農薬の登場前にほとんど絶滅していた」と言えます。
まとめ
農薬の使用とトキの全滅を結び付けるのは困難という結論になりました。
“農薬が原因”の原因の考察
大きな原因としては、
DDTの危険性を叫んだレイチェル・カーソン「沈黙の春」(1962)でしょう。
また、1971年の能登のトキ「ノリ」の死亡原因を”水銀および農薬”と断定したことが大きかったでしょう。
そういった発表から、「農薬=毒物」という誰にでもわかりやすい知識が世間に広まっていったことが原因と考えられます。
「農薬=毒物」はメディアにとっても書きやすく、消費者にとっても自分の生活に直接関することで、非常にわかりやすいため受け入れられました。
次に消費者は「農薬=毒物」の記事を争って読むようになります。
そのサイクルが回り始め、何度も情報が更新されて伝えられることにより、正しくない情報がさも正しいように社会に組み込まれていくことになります。
この流れは資本主義の失敗の一面かもしれません。
再検証の流れ
能登のトキ「ノリ」の死亡原因を”水銀および農薬”と断定したことについて、
ある論文では、“体中から水銀と農薬が見つかったから「農薬が死因」とし、必要な確認作業を行わなかったことが問題”と指摘されています。
(農薬散布と鳥の絶滅との因果関係 : トキの絶滅に対する誤解より抜粋)
参考
- 農薬 – Wikipedia
- 農林水産消費安全技術センター / 登録失効農薬一覧
- 農薬の歴史
- トキ – Wikipedia
メディアの方に知っていただきたいこと~農薬~ 2013-03 NPO法人くらしとバイオプラザ21 - 農薬散布と鳥の絶滅との因果関係 : トキの絶滅に対する誤解