Rの科学情報収集

科学、生化学、獣医学の情報をわかりやすく。この情報過多社会を生き抜く力に。

時事問題 科学

“遺伝子の父”の功績を振り返る

投稿日:2013年11月23日 更新日:

DNA
2度のノーベル化学賞を受賞した、フレデリック・サンガー(Frederick Sanger)氏が2013年11月19日に死去しました。

彼が遺した大きすぎる功績を、化学を知らない人でもわかりやすいように書きました。
間違っている部分やわからない部分があればコメントお願いします!

サンガー氏の功績

・インスリン(タンパク質)の一次構造の特定をはじめて行った。
・タンパク質はアミノ酸が並んだものであると確定した。
・DNAの配列を効率よく解読する方法を確立した。
・RNAの配列の決定方法を確立した。

バイオテクノロジーの基礎を確立したと言っても過言ではありません。

遺伝子(DNA)って何?

DNAは多くの生物の遺伝情報の担う分子です。
二重らせん構造で有名ですね。

そして、DNAは「A」「T」「G」「C」の4つの因子を持っています。

それがなんと、ヒトでは30億個も連続しています。

「そんな多いの解読できないのでは?」と思うかもしれませんが、2003年にヒトの遺伝子解読は終了しています

それを可能にしたのもサンガー氏の功績があったからです。

最初の発見
インスリン(タンパク質)の配列の特定

サンガー氏は、タンパク質はアミノ酸が連結したものであるということを初めて特定しました。

その方法はざっくり言うと、タンパク質を端からアミノ酸1個ずつ切り取るというものでした。

歴史的にみると、その当時、エドマン分解と呼ばれる有力な方法がありましたが、エドマン分解はタンパク質がある程度の長さになると分解できなくなる問題がありました。

しかし、彼は他の方法でタンパク質の配列を決定しようとしました。
まず、タンパク質にある化合物を反応させると色がつくことを発見しました。
そこから、タンパク質の特定の側から1つずつアミノ酸を分離できる方法を発見しました。
それをインスリン(タンパク質)に試したところ特定できました。

簡単に書いてありますがとんでもないことを彼はやっています。
色がつくことを利用してタンパク質の配列を1つ1つ分離できると考えたこと。
そしてその方法を確立したこと。
さらに、その方法を使って世界で初めてインスリン(タンパク質)の配列を特定したこと。

凄すぎて訳がわかりませんね・・・。

さらに凄いことは、ヒトのインスリンのアミノ酸配列って、21個と30個あるんですが・・・。
私から見ると狂気の沙汰です。

なぜか?

1つ目の理由は、物質の抽出・精製には必ず損失が伴います。
塩を水に溶かして乾燥させて塩に戻すだけでも、10%くらいは無くなります。
(やってみると面白いです!)

そしてもう一つの理由は、化学反応は何種類も経路があるためです。
温度が1度違うだけで、狙った反応物ができず他の物質が生成されることが多々あります。

AからCへの反応で10%失われるとします。
A + B → C(90%) + D(10%)

Cを抽出・精製するだけでさらに10%減ります。
C(90%) → C(81%)

これだけでも結構つらいのですが、これを複数回やることによってさらに恐ろしいことが起こります。

単純に累乗になります。
3回やるだけで、0.81×0.81×0.81=0.53になります。

これを彼は21回、30回やったわけです。

もし1回の損失が10%としても、21回すると残りが10%、30回すると残りが4.2%。
50%だと、21回で残りが4.8×10^(-5)%、30回で残りが9.3×10^(-8)%・・・。

結果的に得られる量がとんでもなく少ない量になり、分析が困難になります。

彼はこれらの壁を乗り越え、1958年にノーベル化学賞を受賞されます。

次なる発見
RNA配列決定法の発見

RNAはDNAの情報を運搬するなどの役割を持つ物質です。
非常に不安定ですぐ破壊されるため、配列の決定法は困難とされていました。

1965年に彼はRNA配列の決定方法を発見しました。
3年でこの偉業を成し遂げています。

これもノーベル賞級の発見と言われていますが、ノーベル賞はなりませんでした。

大いなる発見
DNA配列決定法の発見

彼はさらに大きな発見をしました。

前述のDNAの「A」「T」「G」「C」の4つの因子の順番を、簡単に決定できる方法を発見しました。

…CGTCTGCAG…

DNAは上記のように並んでいます。
彼はそれを下図のように分割して表示する方法を発見しました。

サンガー法

つまり、AはAの列にだけ出てくる、TはTの列にだけ出てくる、GはGの列にだけ出てくる、CはCの列にだけ出てくる方法を作りだしました。

彼はこの功績により、1980年に2度目のノーベル化学賞を受賞しました。

この方法は自動化され、今でもDNAの配列決定に使われています。

まとめ

これを書くにあたって、サンガー氏の功績を改めて確認しましたが本当にすごいですね。
彼がもし居なければ今のバイオテクノロジーはなかったでしょう。

やっぱり科学(化学)は凄いと改めて思いました。

参考

Wikipedia
アミノ酸分析
標準技術集(核酸の増幅および検出)データベース:ジデオキシ法(サンガー法)

-時事問題, 科学

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

no image

ガンの痛みを解決する、科学の新たな光

ガンはほとんどの場合激しい痛みを伴うことが知られています。 私も祖父や大伯父をガンで亡くし、その辛さを垣間見ているのでどうにかならないかと考えていました。 その解決方法となりそうな論文が日本(福岡大学 …

【続報】アフリカ豚コレラ 中国にて84箇所で発生

中国で感染が拡大しているアフリカ豚コレラが止まりません。 10月26日55箇所 ↓ 11月19日84箇所 加速してない・・・? とはいえ、日本には入ってきていません。 水際の防疫対策については報道され …

no image

軽自動車税の増税も…年1.5倍か2倍に

総務省と財務省は6日、消費税率が10%になるまでに、軽自動車を持つ人に毎年かかる軽自動車税を、現行(年7200円)の1・5倍か2倍に引き上げる増税案などを自民党税制調査会の幹部会議に提示した。 (軽自 …

羽つつきにおける関与遺伝子とその役割の探索

Genes and their role in feather pecking explored 羽つつき(カンニバリズム)における遺伝子とその役割の探索 ※羽つつき、尻つつき等をまとめてカンニバリズ …

国際単位系(SI)における定義改定(キログラム単位他3つ変更)って何?

今回採択された国際単位系(SI)における定義改定の概要(産総研HPより) 2018年11月16日。 歴史的に非常に大きな事が起こりました。 なんと4つもの基本単位が国際的に切り替えられました! ただ、 …