2度のノーベル化学賞を受賞した、フレデリック・サンガー(Frederick Sanger)氏が2013年11月19日に死去しました。
彼が遺した大きすぎる功績を、化学を知らない人でもわかりやすいように書きました。
間違っている部分やわからない部分があればコメントお願いします!
サンガー氏の功績
・インスリン(タンパク質)の一次構造の特定をはじめて行った。
・タンパク質はアミノ酸が並んだものであると確定した。
・DNAの配列を効率よく解読する方法を確立した。
・RNAの配列の決定方法を確立した。
バイオテクノロジーの基礎を確立したと言っても過言ではありません。
遺伝子(DNA)って何?
DNAは多くの生物の遺伝情報の担う分子です。
二重らせん構造で有名ですね。
そして、DNAは「A」「T」「G」「C」の4つの因子を持っています。
それがなんと、ヒトでは30億個も連続しています。
「そんな多いの解読できないのでは?」と思うかもしれませんが、2003年にヒトの遺伝子解読は終了しています。
それを可能にしたのもサンガー氏の功績があったからです。
最初の発見
インスリン(タンパク質)の配列の特定
サンガー氏は、タンパク質はアミノ酸が連結したものであるということを初めて特定しました。
その方法はざっくり言うと、タンパク質を端からアミノ酸1個ずつ切り取るというものでした。
歴史的にみると、その当時、エドマン分解と呼ばれる有力な方法がありましたが、エドマン分解はタンパク質がある程度の長さになると分解できなくなる問題がありました。
しかし、彼は他の方法でタンパク質の配列を決定しようとしました。
まず、タンパク質にある化合物を反応させると色がつくことを発見しました。
そこから、タンパク質の特定の側から1つずつアミノ酸を分離できる方法を発見しました。
それをインスリン(タンパク質)に試したところ特定できました。
簡単に書いてありますがとんでもないことを彼はやっています。
色がつくことを利用してタンパク質の配列を1つ1つ分離できると考えたこと。
そしてその方法を確立したこと。
さらに、その方法を使って世界で初めてインスリン(タンパク質)の配列を特定したこと。
凄すぎて訳がわかりませんね・・・。
さらに凄いことは、ヒトのインスリンのアミノ酸配列って、21個と30個あるんですが・・・。
私から見ると狂気の沙汰です。
なぜか?
1つ目の理由は、物質の抽出・精製には必ず損失が伴います。
塩を水に溶かして乾燥させて塩に戻すだけでも、10%くらいは無くなります。
(やってみると面白いです!)
そしてもう一つの理由は、化学反応は何種類も経路があるためです。
温度が1度違うだけで、狙った反応物ができず他の物質が生成されることが多々あります。
AからCへの反応で10%失われるとします。
A + B → C(90%) + D(10%)
Cを抽出・精製するだけでさらに10%減ります。
C(90%) → C(81%)
これだけでも結構つらいのですが、これを複数回やることによってさらに恐ろしいことが起こります。
単純に累乗になります。
3回やるだけで、0.81×0.81×0.81=0.53になります。
これを彼は21回、30回やったわけです。
もし1回の損失が10%としても、21回すると残りが10%、30回すると残りが4.2%。
50%だと、21回で残りが4.8×10^(-5)%、30回で残りが9.3×10^(-8)%・・・。
結果的に得られる量がとんでもなく少ない量になり、分析が困難になります。
彼はこれらの壁を乗り越え、1958年にノーベル化学賞を受賞されます。
次なる発見
RNA配列決定法の発見
RNAはDNAの情報を運搬するなどの役割を持つ物質です。
非常に不安定ですぐ破壊されるため、配列の決定法は困難とされていました。
1965年に彼はRNA配列の決定方法を発見しました。
3年でこの偉業を成し遂げています。
これもノーベル賞級の発見と言われていますが、ノーベル賞はなりませんでした。
大いなる発見
DNA配列決定法の発見
彼はさらに大きな発見をしました。
前述のDNAの「A」「T」「G」「C」の4つの因子の順番を、簡単に決定できる方法を発見しました。
…CGTCTGCAG…
DNAは上記のように並んでいます。
彼はそれを下図のように分割して表示する方法を発見しました。
つまり、AはAの列にだけ出てくる、TはTの列にだけ出てくる、GはGの列にだけ出てくる、CはCの列にだけ出てくる方法を作りだしました。
彼はこの功績により、1980年に2度目のノーベル化学賞を受賞しました。
この方法は自動化され、今でもDNAの配列決定に使われています。
まとめ
これを書くにあたって、サンガー氏の功績を改めて確認しましたが本当にすごいですね。
彼がもし居なければ今のバイオテクノロジーはなかったでしょう。
やっぱり科学(化学)は凄いと改めて思いました。